画家の技法シリーズ

 

「油彩風景画における、ちょっとした幾つかのコツ」(下描きは木炭で)

スケッチの意義

前項ではスケッチについての考察を少し述べさせて頂きましたが、ここからは油彩風景画の技法にからんで、私の長年の経験上思い当たる点をアドバイス的に挙げてみようかと思います。只、油彩の技法については今日あらゆるメディアによって既に様々な情報提供がなされておりますので、技法の細かなプロセス等はまた別の項に譲るとしまして、ここでは風景画を描く際の幾つかのコツ或いはヒントのようなものを述べさせて頂きます。

1、下描きは木炭で

今日では色々なジャンルの絵が有りますが、ここではごく一般的な写生画を描く時と設定しましょう。戸外で風景画を描く時、キャンバスには木炭で下描きをしましょう。 (なるべく細身のやなぎの木炭で直径4mm位のものがよろしいでしょう。)

これはごく当たり前の事だと思うかも知れませんが、実はそうでもありません。アトリエで静物を描くときは木炭を使うのだけれど、戸外で写生をする時には時間的な制約からかあるいは面倒な手続きを嫌ってか、油絵の具で直接下描きをする人がアマチュアの方達のなかでも結構多いのです。イエローオーカーをテレピン油で薄く溶き、直接絵の具で下描きをする。プロの画家が良く行っている事ですし、マニュアル本にも書いてあったりします。この方が断然格好良いし、いかにも慣れているという感じがして・・・逆に木炭で下描きをしているのは素人くさいと思われるむきもあります。

しかし、私はあえて木炭での下描きをお薦めします。理由は木炭はぼろ布などですぐ簡単に消せるからです。いくらでも修正がきき、微調整が出来、後で消す補助線や予測線も描き込むことが出来ます。かくしてしっかりとした満足のいく下絵が得られるまでじゅうぶんに構図の検討ができるのです。

一方、薄塗りの絵の具の下描きでもある程度の修正、調整は出来ます。只、絵の具は簡単には消えませんし色々な線がダブっているうちに非常に解りづらい下描きになってしまったりするのです。「塗っているうちに、直せばいいや」では時間ももったいないし、第一、最初の構図が悪いと気分的に乗らなくなってきたりして結果、絵の出来にも少なからず悪影響を及ぼしてしまうのです。なぜこんな事をあえて言うのかと申しますと、風景画の命は80%構図にあると言っても過言ではないからです。勿論、色や面白い建物やその他の要素に魅せられてということも有りますが、かなり多くの場合、風景画を描きたいというモチベーションは実景の構図に由来していることが多いのです。つまり前項でも述べましたが、「何に感動してこの風景を描きたいと思ったのか」その一番重要なポイントがこの構図をとる(下描きをする)時間にあるのです。

その点、私は木炭で下描きをしているから大丈夫と思ったあなた、5分で下描きを終えていませんか?絵の完成時に一番の決め手となる構図をおろそかにしていませんか? 戸外で描くという限られた時間のなか、一刻も速く下描きを終えて油絵の具で描き進めたいという気持ちも解りますが、少なくとももう少し2、30分くらい構図と格闘してみて下さい。そして自分がイメージした完成時の絵にしっくりときた構図が得られたとき、木炭止めスプレー(フィクサティ-フ)を吹き付けて、さあ これからが楽しい風景画のスタートです。成功のポイントは8割方ここで決まるのです。

以上のような理由から私は木炭での下描きをお薦めします。ただし、同じ現場を100回も描いているプロの画家と天才肌の人はその限りでは有りません。

<大事なこと>

※  下描きでは細かな描き込み(例えば木々の葉の一枚二枚とか)は必要有りません。
※  全体の大きなバランスと大きさ、分量の比率(例えば空、山、畑)はいちばん重要。
※  微妙で魅力的な線(例えば山の稜線、輪郭など)は丁寧に。
※  最後に、木炭を余り強く塗りすぎて真っ黒なキャンバスにしないよう、不用な線は
    ぼろ切れできれいに拭いておきましょう。

 

 

下描きのプロセス(一例)

 

1. 大まかな線で空、山、畑、家などの分量と位置を決める。

大まかな線で空、山、畑、家などの分量と位置を決める。

2. いろんな補助線なども使いながら、近景、中景、遠景、のバランスをとっていく。

いろんな補助線なども使いながら、近景、中景、遠景、のバランスをとっていく。

3. 大体の構図が決まったら、線は少し強めに解りやすくしっかりと描き込む。デッサンとは違うので塗ってはいけません。ただし、ポイントとなる部分は強めに描き、完成時の絵がイメージ出来るように。

大体の構図が決まったら、線は少し強めに解りやすくしっかりと描き込む。デッサンとは違うので塗ってはいけません。ただし、ポイントとなる部分は強めに描き、完成時の絵がイメージ出来るように。

 

 

以上の下描きから始まった油彩画の完成作品(参考)

油彩画の完成作品

 

 

次回は風景画における空の話、陰影の話、山の色の話などを順次お話しようかと思っております。

 

 

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